介護や障害福祉のサービスは、利用契約書、重要事項説明書、料金表、個人情報の同意書といった複数の書類で成り立っています。指定を受けた事業所には、サービスの提供の開始にあたり、重要事項を記した文書を交付して説明し、同意を得ることが運営基準で定められており、契約書の書き方もこれと切り離せません。契約の当事者はだれか、本人が署名できないときの同意の残し方、保険給付と保険外の費用の区分、身体拘束の禁止と記録、事故のときの連絡と賠償、免責条項の限界、虐待防止と苦情の窓口、事業所からの解除と提供拒否、個人情報と家族の情報、有料老人ホームの前払金と入居契約、電子での同意まで、利用契約の中身は幅広くなります。このガイドは、介護保険法・障害者総合支援法・社会福祉法・老人福祉法・民法・消費者契約法・個人情報保護法と、厚生労働省令の運営基準の条文に沿って、書面の作り方と条文の読み方を整理した解説です。医療や介護の専門的な判断には立ち入りません。

利用契約書・重要事項説明書を整える事業所の方

机の上の書類に二人が書き込んでいる手元

運営規程・重要事項説明書・契約書の三つの関係から決める

指定を受けた事業所は、運営規程を定め、そこから重要事項説明書を作り、利用契約書で個別の権利義務を決めます。三つの内容が食い違うと、説明した内容と契約した内容のどちらが正しいのかが利用者にも事業所にも分からなくなります。

介護保険、障害福祉、有料老人ホームでは、説明と書面交付の根拠が別々の条文に置かれています。保険内の契約書に保険外の取決めを混ぜないことも、書類を整理するときの出発点です。

本人・家族・代理人の同意を残したい方

受付の窓口と待合の椅子が並ぶ廊下

説明の相手、契約の当事者、費用を負担する人は別でありうる

運営基準では、重要事項の説明の相手は「利用申込者又はその家族」、同意を得る相手は利用申込者とされています。契約の当事者、費用を負担する人、署名する人が同じとは限りません。

本人が署名できないとき、家族の署名が当然に代理になるわけではありません。署名欄・代理人欄・立会人欄の設計と、代理人の資格を確かめる書類を決めておきます。

利用料・費用・解除の条件を見直したい方

電卓のボタンが並んでいる様子

給付の自己負担、保険外の費用、提供拒否の禁止

利用料は、保険給付の自己負担、利用者が別に負担する費用、保険外の費用に分けて説明し、同意を得ます。実施地域を超える交通費や日常生活に要する費用の扱いにも、定めがあります。

事業所からの解除や停止は、提供拒否の禁止との関係で、どこまで書けるかに限りがあります。利用者側からの解約を長く・厳しくしすぎない書き方も必要です。

身体拘束・事故・虐待防止の条項を整えたい方

ソファが並ぶ明るい待合室

運営基準が定める義務を、契約書と説明書にどう落とすか

身体拘束は、緊急やむを得ない場合を除いて行ってはならず、行った場合は態様・時間・心身の状況・理由を記録するとされています。契約書に包括的な同意を書いておけば足りる、という整理にはなりません。

事故のときの連絡と記録、賠償すべき事故での速やかな賠償、苦情の窓口、虐待防止の措置も、基準が事業所に求めている事項です。免責条項は消費者契約法の制約を受けます。

個人情報・電子での同意を整えたい方

管理画面のグラフが映るノートパソコン

担当者会議、家族の情報、フォームでの同意

サービス担当者会議などで利用者の個人情報を使うには利用者の、家族の個人情報を使うには家族の、あらかじめ文書による同意を得ることが運営基準に定められています。要配慮個人情報の取得にも、原則として本人の同意が要ります。

重要事項説明書を電磁的方法で提供するには、利用申込者又はその家族の承諾が前提です。フォームでの同意を証拠として残すには、記録の設計が欠かせません。

有料老人ホーム・障害福祉の契約を見直したい方

明かりのともる廊下と壁に掛かる絵

前払金の保全と返還、居室の移動、受給者証と契約支給量

有料老人ホームの入居契約では、前払金の算定の基礎、保全措置、一定期間内の契約の終了や死亡のときの返還が、老人福祉法などで整理されています。居室の移動や退去の条件を一方的に狭めない書き方も必要です。

障害福祉サービスでは、支給決定、契約支給量、受給者証への記載、市町村への報告という手続の流れに沿って契約書を書きます。障害の特性に応じた説明の配慮も求められます。

このガイドの解説ページ

よくあるご質問

重要事項説明書と利用契約書は、同じ書類にまとめてよいですか?

居宅サービスの運営基準(訪問介護の場合は8条1項)は、サービスの提供の開始にあたり、あらかじめ、利用申込者又はその家族に、運営規程の概要、従業者の勤務の体制その他サービスの選択に資する重要事項を記した文書を交付して説明し、利用申込者の同意を得るよう定めています。契約書は個別の権利義務を決める書類で、役割が違います。書式を一体にするか分けるかは事業所の判断ですが、交付・説明・同意の手続を記録に残せる形にし、二つの内容が食い違わないようにしておきます。

本人が署名できないとき、家族が署名すれば契約になりますか?

家族が署名したことだけで、本人の代理として契約したことにはなりません。重要事項の説明の相手は利用申込者又はその家族ですが、同意を得る相手は利用申込者です。意思能力のない状態でした法律行為は無効とされ(民法3条の2)、本人に代わって契約するには代理権が必要です。署名欄は、本人、代理人、立会人を分け、代理人の資格を確かめる書類も決めておくと、後で説明がつきます。

契約書に「身体拘束に同意する」と書いておけば足りますか?

運営基準は、利用者又は他の利用者等の生命又は身体を保護するため緊急やむを得ない場合を除き、身体的拘束等を行ってはならないと定め、行う場合は態様・時間・その際の心身の状況・緊急やむを得ない理由を記録するよう定めています(訪問介護の場合は23条3号・4号)。条文上、例外の要件に利用者の同意は挙がっていません。包括的な事前同意の条項は、消費者契約法や民法の観点からも問題になり得るため、書き方には注意が要ります。拘束の要否そのものの判断には、このサイトでは立ち入りません。

事故があっても「一切責任を負わない」と書いてよいですか?

事業者の債務不履行や不法行為による損害を賠償する責任の全部を免除する条項は、消費者契約法8条1項により無効です。故意又は重大な過失による場合の責任の一部を免除する条項も同じです。運営基準も、賠償すべき事故が発生したときは損害賠償を速やかに行うよう定めています(訪問介護の場合は37条3項)。免責は、どの範囲まで書けるかを条文に沿って整理します。

利用料を滞納されたら、すぐにサービスを止めてよいですか?

運営基準は、正当な理由なくサービスの提供を拒んではならないと定めています(訪問介護の場合は9条)。滞納を理由にする場合も、何が正当な理由といえるかは事情によります。催告の手順、説明の記録、他の事業者への連絡などを、契約書の解除・停止の条項と運用の双方で整えておきます。遅延損害金は、年14.6%を超える部分が消費者契約法9条1項2号により無効です。

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監修:アトラス行政書士法人(代表社員 荒木素子・特定行政書士) 最終確認日:2026年10月15日