このページの要点
- 提供拒否・利用停止・契約解除は別の行為。契約書でも段階を分けて書く
- 解除事由は具体的な行為と是正の手順をセットで書き、他の事業者の紹介などの必要な措置を前に置く
- 特定施設では入居者の権利を不当に狭める解除条件は定められず、後見開始のみを理由とする解除条項は無効
- 利用者からの解約は通知期間と方法を重くしすぎず、前払分や提供済み分の精算方法を書いておく
介護・福祉サービスの利用契約で、事業所の側から「契約を終えたい」「いったんサービスを止めたい」と考える場面は、利用料の滞納、職員への暴言や暴力、訪問先の環境、利用者の状態の変化、家族との連絡が取れないことなど、さまざまです。ところが、指定を受けた事業所には、正当な理由なくサービスの提供を拒んではならないという運営基準上の義務があり、契約書に「事業者はいつでも解除できる」と書いてあるだけでは、思ったとおりには終えられません。反対に、利用者の側から契約を終えるときの条件を重くしすぎると、消費者契約法の面から問題になります。
このページは、事業所からの解除・利用停止・提供拒否と、利用者からの解約、そして解除のときの精算を、運営基準・民法・消費者契約法の条文に沿って整理します。結論を先に挙げると、次の四点です。第一に、「提供拒否」「利用停止」「契約解除」は別の行為であり、契約書でも段階を分けて書く。第二に、事業所からの解除事由は、具体的な行為と、是正を求める手順とセットで書き、「事業者が合理的に判断したとき」だけの書き方にしない。第三に、特定施設や有料老人ホームでは、入居者の権利を不当に狭める解除条件は定められない。第四に、利用者からの解約は、通知期間や方法を厳しくしすぎず、精算の計算方法を示しておく。なお、ケアの内容が適切かどうか、サービスを続けることが医学的・介護的に妥当かどうかといった専門的判断には立ち入りません。書面と条文の読み方に絞った解説です。
提供拒否・利用停止・契約解除は、別の行為として書き分ける
契約書を作るときに最初に整理しておきたいのは、似て見える三つの行為を区別することです。どれも「サービスを提供しない」結果になりますが、適用される条文も、利用者への影響も、手順の重さも違います。
三つの行為の違い(一般的な整理)
| 行為 | 意味 | 主な根拠・考え方 | 契約書で書くこと |
|---|---|---|---|
| 提供拒否 | 利用の申込みの段階、または新たな提供の求めに対して、サービスを提供しないこと | 運営基準は、正当な理由なく提供を拒むことを禁止している(居宅基準9条、障害基準11条) | 原則として契約書の条項ではなく、受入れの基準・運営規程の側で整理する |
| 利用停止(一時停止) | 契約は続けたまま、一定の期間または条件が満たされるまで、サービスの提供を止めること | 契約上の根拠(停止事由、期間、再開の条件)が必要。理由のない長期の停止は提供拒否と同じ問題を生む | 停止事由、事前の通知、緊急時の例外、停止の期間と再開の条件、停止中の料金 |
| 契約解除 | 契約そのものを終了させること | 民法の解除(541条・542条)や契約書の解除条項。サービスの種類によっては、解除条件に制限がある(居宅基準178条2項) | 解除事由、是正を求める手順、通知の方法、効力が生じる時期、精算、引継ぎ |
| 利用者からの解約 | 利用者の側から契約を終了させること | 契約書の解約条項。委任の性質をもつ契約では、民法651条が参考になる場合がある | 通知の方法・時期、解約に伴う費用の精算、解約後の手続 |
契約書の中でこの三つが混ざっていると、事業所の側は「解除のつもりで停止した」「停止のつもりが事実上の解除になった」という説明の食い違いを抱えることになり、利用者の側は、いつ何を理由にサービスが止まるのかが分からなくなります。条文の見出しと中身を、行為ごとに分けて書くのが出発点です。
提供拒否の禁止と、提供が難しいときにしなければならないこと
運営基準は、サービスの申込みを受けた事業所が、正当な理由なく提供を拒むことを禁じています。訪問介護の例では、居宅基準9条が「正当な理由なく指定訪問介護の提供を拒んではならない」と定め、障害福祉サービスでも同じ内容が置かれています(障害基準11条)。拒否してよい「正当な理由」が何かは、条文そのものには列挙されていません。具体的にどのような場合が正当な理由に当たるかは、所管官庁が示す解釈の資料で確認する必要があります。契約書に「当事業所の判断で受け付けないことがある」と書いておくだけでは、運営基準上の義務が軽くなるわけではありません。
一方で、運営基準は、事業所が自分では適切なサービスを提供するのが難しいと認めたときに、何をするかも定めています。居宅基準10条は、通常の事業の実施地域などを考えて、利用申込者に自ら適切なサービスを提供することが困難であると認めた場合に、居宅介護支援事業者(ケアプランを作る事業者)への連絡、適当な他の事業者の紹介その他の必要な措置を速やかに講じなければならないとしています。障害福祉サービスでも同様に、サービス提供困難時の対応が定められています(障害基準13条)。
基準・法令提供拒否と提供困難時の対応についての定め(訪問介護・居宅介護の例)
- 居宅基準9条
- 正当な理由なく、指定訪問介護の提供を拒んではならない
- 居宅基準10条
- 自ら適切な指定訪問介護を提供することが困難であると認めた場合は、居宅介護支援事業者への連絡、適当な他の事業者の紹介その他の必要な措置を速やかに講じる
- 障害基準11条
- 正当な理由がなく、指定居宅介護の提供を拒んではならない
- 障害基準13条
- 通常の事業の実施地域等を勘案し、自ら適切なサービスを提供することが困難であると認めた場合は、他の事業者の紹介その他の必要な措置を速やかに講じる(条文の見出しは「サービス提供困難時の対応」)
ほかのサービス(通所、短期入所、施設サービスなど)にも同様の規定が置かれていますが、条番号と文言はサービスごとに違います。実際に書くときは、事業所が指定を受けているサービスの基準と、所在地の条例で確認します。
ここから、契約書の作り方への影響が出てきます。事業所が解除や停止を考える場面では、実質的には「自ら適切なサービスを提供することが困難」な状況になっていることが多く、そのときは契約を一方的に切るだけでなく、他の事業者への連絡や紹介といった「必要な措置」を講じる流れを、契約書にもあらかじめ書き込んでおくのが整った形です。解除の条項に「措置を講じる」という一文があるかどうかが、あとで運営基準との整合を説明できるかどうかの分かれ目になります。
事業所からの解除・停止の事由は、行為と手順をセットで書く
事業所からの解除について、契約書の側でよく見かける書き方は、大きく二つに分かれます。一つは「利用者が本規約に違反した場合、または本サービスの適正な提供が困難であると事業者が合理的に判断した場合には、事前の催告や通知の有無にかかわらず、解除できる」という包括的な書き方です。もう一つは、解除事由を具体的な行為に分け、是正を求める手順を前に置く書き方です。前者は書く手間が少ない反面、利用者から見れば何をしたら解除されるのか分からず、事業所にとっても、解除が争われたときに「合理的な判断」だったことを後から説明しなければならない負担が残ります。
民法の解除の基本形は、相当の期間を定めて履行を催告し、その期間内に履行がないときに解除できる、というものです(民法541条)。ただし、その期間を経過した時点での不履行が、契約と取引上の社会通念に照らして軽微であるときは解除できません。催告なしで直ちに解除できるのは、履行不能、履行拒絶の明確な表示、契約の目的を達することができないことが明らかな場合など、民法542条1項に列挙された場合です。契約書で「催告なしに解除できる」とする範囲を広げすぎると、この民法の枠組みよりも利用者に不利な内容になり、消費者契約法10条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)の観点から問題になりえます。
書き方の例(一般的な例) 事業者からの解除条項
解除の事由
理由解除の事由を行為で書き、是正の機会を前に置くと、民法541条の枠組みと合い、利用者にも何を改めればよいかが分かる。「合理的な判断」だけでは、後から争われたときに事業者が説明を負う
解除後の責任
理由事業者の債務不履行や不法行為による賠償責任を全部免除する条項は、消費者契約法8条1項で無効とされる。解除の有効性や事業者の落ち度の有無にかかわらず「一切責任を負わない」と読める書き方は避ける
通知の方法
理由効力が生じる時期を、到達や一定の予告期間で示すと、移行先の調整の時間が確保できる。緊急の場合は、解除ではなく一時停止を先に行う二段にすると無理がない
書き方の例事業者からの契約の解除(書き方の一例)
- 事業者は、利用者が次の各号のいずれかに該当し、事業者が相当の期間を定めて是正を求めたにもかかわらず、その期間内に是正されず、サービスの提供を継続することが著しく困難になったときは、書面により通知して、本契約を解除することができる。(1)利用料の支払いを、催告を受けてもなお怠ったとき (2)事業者の従業者に対し、サービスの提供を困難にするほどの暴力、威迫その他の言動を継続して行ったとき (3)その他、本契約の重要な事項に違反したとき
- 事業者は、前項の解除をしようとするときは、あらかじめ、居宅介護支援事業者その他の関係者への連絡、他の事業者の紹介その他の必要な措置を講じる。
- 従業者または他の利用者の生命もしくは身体に差し迫った危険があるときは、事業者は、事前の通知なく、サービスの提供を一時停止することができる。この場合、事業者は、速やかにその理由および再開の条件を利用者に通知する。
実際の条項は、サービスの種類、利用者の状況、運営規程との関係で調整します。数字(予告の日数など)は、事業所の運営に合わせて決めます。
契約書の条項は、運営規程とも連動します。運営規程は、利用料その他の費用、通常の事業の実施地域、緊急時の対応、虐待防止の措置といった事業の運営についての重要事項を定める規程です。契約書で「運営規程に定める場合には、サービスを停止できる」と書くなら、運営規程の側にも停止や終了の取扱いが書かれていて、重要事項説明書で説明されている必要があります。三つの書類の関係は、契約書の全体像のページで整理しています。
暴言・暴力・環境の問題は、段階を踏んで対応を決めておく
利用者や家族の暴言、暴力、ハラスメント、不衛生で危険な環境といった問題は、従業者の安全に関わるため、契約書に何らかの定めを置きたくなる場面です。ここで気をつけたいのは、二つのことを同時に満たす必要がある点です。一つは、従業者を守るための対応を、すぐに取れるようにすること。もう一つは、サービスを必要とする利用者の立場を、理由のない打切りから守る運営基準の趣旨に沿うこと。両方を満たすには、対応を一つの条項に詰め込まず、段階に分けるのが現実的です。
問題が起きたときの対応の段階(一般的な流れの例)
- 事実の記録いつ、どこで、誰に対して、どのような言動があったかを、従業者が複数の目で確認して記録する。主観的な評価ではなく、具体的な行為を書く
- 口頭での伝達と是正の依頼その場または後日、利用者や家族に、問題となった行為と、改めてほしい点を伝える。伝えた日時と内容も記録する
- 書面での通知改善がみられないときは、問題となった行為、是正してほしい内容、改善されない場合に一時停止または解除がありうることを書面で示す
- 関係者との調整居宅介護支援事業者、市町村、相談支援事業者など関係機関に連絡し、対応を共有する。他の事業者への引継ぎの可能性も探る
- 一時停止(必要な場合)従業者の安全に差し迫った危険があるときは、事前の通知なく一時停止し、速やかに理由と再開の条件を伝える
- 解除(最後の手段)上の手順を踏んでもなおサービスを続けることが著しく困難なときに、書面で解除を通知し、移行先の調整と精算を行う
苦情や虐待の通報に関する扱いは虐待防止・苦情対応と契約書のページで整理しています。ここでは、解除と停止の手順に絞ります。
この段階の考え方は、契約書の条項だけでなく、事業所が内部で持つ対応手順(マニュアル)にも反映しておくと、現場の判断が揃います。契約書に「事業者が合理的に判断したとき」とだけ書いてあっても、現場の記録がなければ、後から判断の合理性を示すことが難しくなります。
利用者や家族の言動を理由にする場合は、言動の背景に、認知症などの症状や、介護の負担からくる精神的な疲れがあることもあります。そのため、「悪意のある迷惑行為」と「症状に由来する行動」を契約書の文面で区別することはできませんが、運用では、まず関係機関と情報を共有し、環境や支援の方法を調整できないかを検討する順序を踏む、という考え方が条文の趣旨にも合います。ケアの方法の判断そのものは専門職の領域であり、ここでは書面の側面だけを扱います。
特定施設・有料老人ホームでの退去条件と、判断能力の変化を理由にする解除
介護保険の特定施設入居者生活介護の指定を受けた施設では、入居と介護サービスの提供に関する契約を文書で結ぶことが求められ、その契約で「入居者の権利を不当に狭めるような契約解除の条件を定めてはならない」とされています(居宅基準178条1項・2項)。利用者を介護居室又は一時介護室に移す場合の意思の確認などの手続も、あらかじめ契約の文書に明記することが求められています(同条3項)。これは、入居者にとって、解除が住まいを失うことを意味するためです。
このため、入居系のサービスの契約書では、通常の通所や訪問のサービスよりも、解除条項を細かく書くことが必要になります。たとえば、次のような点です。
入居系の契約書で、解除条件を書くときに確認したい点
- 解除の事由が、入居者の権利を不当に狭めるものになっていないか(「事業者が必要と認めたとき」だけ、といった書き方になっていないか)
- 利用料の滞納を理由にする解除では、催告と、一定の猶予の期間が置かれているか
- 介護居室への移動など、居室や介護の形態を変えるときの手続(本人の意思の確認、家族への説明、記録)が契約の文書に明記されているか
- 入院した場合の取扱い(居室の確保、利用料、退院後の再入居)が書かれているか
- 解除や終了のときの居室の明渡しの期限と、残置物の取扱いが、実情に沿っているか
- 前払金がある場合の返還の計算(詳細は有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅の入居契約で整理)
もう一つ、契約書を見直すときに点検したいのが、利用者の判断能力に関わる条項です。たとえば「認知症が進行し、意思の確認が困難になったとき」を事業者からの解除事由にしている書き方があります。これには二つの面から注意が必要です。まず、消費者契約法8条の3は、消費者が後見開始、保佐開始または補助開始の審判を受けたことだけを理由として、事業者に解除権を与える条項を無効とします(ただし、消費者が事業者に対して物品や役務などを提供する契約を除く)。つまり、「成年後見が開始したから」という理由だけでは、解除事由にできません。次に、仮に審判を受けていなくても、「意思確認が困難になったとき」を包括的な解除事由にすると、サービスが最も必要になる時期に契約が終わりうるため、入居者の権利を不当に狭める条項(居宅基準178条2項)や、消費者の利益を一方的に害する条項(消費者契約法10条)として問題になりえます。
判断能力が低下した場合の対応は、解除ではなく、本人の意思の確かめ方、家族や後見人などとの連絡、代理人の資格の確認といった手続の側で受け止めるのが基本です。この点は契約者は誰か(本人・家族・代理人・成年後見人)のページで整理しています。
利用者からの解約は、通知期間と精算を重くしすぎない
利用者の側からの解約には、事業者からの解除よりも、運営基準上の制限が少ない代わりに、民法と消費者契約法の考え方が効いてきます。介護・福祉サービスの利用契約は、事業者が利用者のためにサービスという事務を処理する性質をもつ場合が多く、そのような契約には、委任(準委任)の規定が参考になることがあります。民法651条1項は、委任について、各当事者がいつでも解除できるとしています。ただし、相手方に不利な時期に解除したときは、やむを得ない事由がある場合を除いて、相手方の損害を賠償しなければならないとされています(同条2項)。準委任には、民法656条により、委任の規定が準用されます。契約の性質は、サービスの内容や契約書の文言によって異なるため、契約全体について画一的に委任と決めつけることはできませんが、「利用者はいつでも契約を終了できる」という考え方が出発点になります。
これを踏まえると、解約について契約書でよく見かける書き方の中には、見直しが必要なものがあります。
書き方の例(一般的な例) 利用者からの解約条項
通知の期間と方法
理由長い予告期間や、書式・方法の限定は、利用者に不利で、消費者契約法10条の観点から問題になりうる。入院や死亡のようにやむを得ない場合の例外を明記しておく
解約に伴う費用
理由解除に伴う違約金や損害賠償の予定は、同種の契約の解除に伴い事業者に生ずべき平均的な損害の額を超える部分が無効となる(消費者契約法9条1項1号)。返金なしの条項は、この点から確認が必要
事業者の債務不履行による解除
理由事業者の債務不履行により生じた消費者の解除権を放棄させる条項は、消費者契約法8条の2により無効。利用者側の解除権を一切認めない書き方は避ける
解約の場面では、利用者が自ら手続をするとは限りません。入院や入所、死亡によって、家族や後見人などが代わりに連絡することが多くなります。契約書の解約条項には、本人以外の人からの通知を受けつける場合の確認事項(誰からの通知か、代理の資格はあるか)を、手続の側に書いておくと、トラブルが減ります。死亡による契約の終了や、入院中の取扱いは、契約トラブルとよくある質問でも触れています。
解除のときの精算・引継ぎ・反社会的勢力の条項
契約が終わるときには、金銭の精算と、サービスの引継ぎの二つを整理しておく必要があります。契約書に精算の考え方が書かれていないと、解除のたびに、日割りか月割りか、前払分をどうするかをめぐって、事業所と利用者・家族の間で食い違いが生じます。
終了時に決めておきたい事項(一般的な例)
| 事項 | 決めておく内容 | 確認したい点 |
|---|---|---|
| 提供済みサービスの利用料 | 終了日までに提供した分を、保険給付の自己負担分と保険外の費用に分けて精算する | 請求の時期、支払期限、最後の請求書の送り先 |
| 前払いしている費用 | 提供していない部分を返還する。計算方法(日割りなど)を契約書または料金表に書く | 返還の時期と方法、返還先の口座の確認方法 |
| 預かり品・貸与物 | 預かっている物の返還、貸与物の回収の方法と期限 | 預かり品の一覧、受領の確認の記録 |
| 記録・情報の取扱い | 提供記録の保存と、利用者からの開示請求への対応 | 保存期間(居宅基準39条2項は、提供に関する記録を完結の日から二年間保存すると定める)、個人情報の取扱い |
| 他事業者への引継ぎ | 移行先の事業者や居宅介護支援事業者への情報の提供と、利用者の同意 | 情報提供の前に、文書による同意を得ているか(居宅基準33条3項の趣旨) |
引継ぎでは、居宅基準10条が定める「必要な措置」の考え方が参考になります。解除が決まった時点から実際に終了するまでの間にも、利用者に必要なサービスが途切れないよう、居宅介護支援事業者などと連絡を取り、移行先が見つかるまで一定の期間サービスを続けるか、あるいは短期間で終了する場合は何を代わりに案内するか、といった調整が必要になります。契約書に、終了の際に引継ぎの協力をする旨を書いておくと、解除の通知とあわせて説明しやすくなります。
最後に、反社会的勢力の排除に関する条項です。暴力団、暴力団員、暴力団関係企業、総会屋などに該当しないことを表明し、確約してもらい、該当すると判明した場合は催告なしで解除できる、というのが典型的な書き方です。この条項は、他の業種の契約書でも広く使われており、介護・福祉サービスでも置かれることが多くなっています。ただし、次の点に注意が必要です。
確認反社会的勢力条項を置くときの問い
「関係者」の範囲が広すぎないか。
同居の家族や親族まで含めて確約させる書き方は、本人が把握できない事情で解除される可能性がある。誰の属性について表明させるのかを絞る
「疑いがあると判断したとき」だけで解除できる書き方になっていないか。
判断の根拠が不明確だと、争われたときに事業者が説明に苦労する。判明した場合、または客観的な資料により認められる場合に限るほうが整う
解除の際の引継ぎや精算の取扱いも、一般の解除と整合しているか。
反社会的勢力の条項で解除する場合でも、提供拒否の禁止や提供困難時の措置の考え方が完全になくなるわけではない。運営規程や関係機関との相談の窓口と合わせて整える
利用者に生じた損害の賠償を全部免除していないか。
「解除により利用者に生じた損害は一切賠償しない」とする部分は、消費者契約法8条1項の観点で確認が必要
反社会的勢力に関する条項の詳細な文面は、事業所の運営形態によって異なります。
起きがちなこと
解除・停止・提供拒否の条項は、書面の上では問題がなさそうに見えても、運用の段階で食い違いが出やすい部分です。契約書に具体的な手順を書き、現場の記録と整合させておくことが、事業所にとっても、利用者や家族にとっても安心につながります。
起きがちなこと
- 契約書の解除条項が「事業者が合理的に判断したとき」だけで、何をすれば解除されるのかが利用者にも従業者にも分からない
- 従業者の安全のための一時停止を、事実上の解除として扱ってしまい、停止の理由と再開の条件が利用者に伝わっていない
- 解除通知を出したが、居宅介護支援事業者や市町村への連絡が後回しになり、移行先が決まらないまま利用者が支援を受けられなくなる
- 認知症の進行や後見の開始そのものを理由とする解除条項を置いている
- 利用者からの解約に、長い予告期間や、所定の書式のみという条件を付け、入院や死亡の例外を書いていない
- 前払いの利用料の返還方法が契約書にも料金表にも書かれておらず、解除のたびに計算方法が変わる
- 反社会的勢力の条項の「関係者」が広く、同居の家族の属性まで確約させる書き方になっている
よくあるご質問
事業所は、利用料を滞納した利用者との契約を、すぐに解除できますか。
契約書に解除事由として滞納が書かれていても、民法541条の基本形は、相当の期間を定めた催告をして、その期間内に支払いがないときに解除できる、というものです。滞納の期間や金額が軽微なときは解除が認められない場合もあります。運営基準上は、正当な理由のない提供拒否が禁止されているため、滞納を理由にする場合も、催告、支払方法の相談、関係機関への連絡といった手順を踏み、記録を残しておくのが基本です。
暴言や暴力を繰り返す家族がいる場合、サービスを止めてよいですか。
従業者の生命や身体に差し迫った危険があるときは、事前の通知なく一時停止する定めを置くことが考えられます。ただし、一時停止は、理由と再開の条件を速やかに示す前提で用い、いきなり解除と同じ扱いにしないのが整った形です。繰り返される場合は、事実の記録、書面での是正の依頼、関係機関との共有、必要な措置を講じた上での解除、という段階を契約書と内部の手順に書いておきます。具体的な対応のしかたは、サービスの種類や利用者の状況によって異なります。
「利用者の意思確認が困難になったとき」を解除事由にしてもよいですか。
お勧めできる書き方ではありません。消費者契約法8条の3は、後見開始、保佐開始または補助開始の審判を受けたことのみを理由とする事業者の解除権の条項を無効とします。審判を受けていなくても、意思確認が難しくなったことを包括的な解除事由にすると、サービスが最も必要な時期に契約が終わりうるため、特定施設では居宅基準178条2項、一般の契約では消費者契約法10条の面から問題になりえます。意思確認が難しいときの対応は、解除ではなく、代理人や家族などとの手続の側で受け止める設計が基本です。
利用者が突然「今日で解約したい」と言ったとき、予告期間がないと断れますか。
契約書に予告期間が書かれていても、その期間が不当に長いときや、やむを得ない事情(入院、死亡、転居など)まで一律に拒むときは、消費者契約法10条の観点から問題になりえます。委任の性質をもつ契約では、民法651条1項が、いつでも解除できるとしています。事業所の準備に必要な最小限の期間を設け、緊急の場合の例外を書き、すでに提供した分の精算を適切に行うのが整った書き方です。
解除したときに、前払いの利用料は返さなくてもよいと書いておけますか。
提供していない部分の前払金を、返金しない旨の条項は、解除に伴う損害賠償の予定または違約金に当たるかどうかが問題になります。この種の条項は、同種の契約の解除に伴い事業者に生ずべき平均的な損害の額を超える部分が無効とされます(消費者契約法9条1項1号)。有料老人ホームの前払金については、老人福祉法29条10項と同法施行規則21条が、返還の計算について定めています。いずれも、返還の方法を契約書か料金表に具体的に書いておくことが前提になります。
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本ページは一般的な情報提供です。個別の契約への当てはめは、サービスの種類、契約書の文言、利用者の状況によって異なることがあります。書き方の例として紹介している内容は、一般に見られる書き方を整理した例で、特定の事業者や案件を示すものではありません。医療や介護の専門的な判断(身体拘束の要否、ケアの内容の適否など)には立ち入りません。条文は e-Gov 法令検索(法令API)で確認した現行のものに基づき、まだ施行されていない改正は現行の内容として扱っていません。参考: e-Gov法令検索 / 厚生労働省 / 消費者庁 / 個人情報保護委員会